gusonの日記

脳外科勤務医.仕事,茶と書,仏教,趣味,その他について独り言です.

三体について

中国で有名なSF三体をご存じだろうか.最近,NetflixAmazonにて公開され,またaudibleでも聞くことが出来る.もちろん,本で読むべきかと思うのだが,これらでも十分おもしろい.どうも,はまってしまった.

簡単にいうとそれは宇宙人との遭遇の話である.この物語は,まず理論物理学者などノーベル賞クラスの有名な科学者が世界でつぎつぎに自殺する事件からはじまる.そして,それを追うには国家レベルの対応,世界各地に軍を中心に最高クラスのリソースを投入した組織が作られ,そこに所属するしがない場末な刑事がナノ科学者である主人公と接触するところから始まる..そしてここでVRゲームの世界に入り,歴史上の人物と三体問題について予測モデルを作成していくところにいくのだが,そこから今風かな,ということ,なかなかついて行くのが難しいところではある.なんだがそれで挫折する懸念もあるがね..それでも頑張ってついて行くと,いずれその意味する所があきらかになってくるよ.

 

三つ印象に残ったことがある

一つは宇宙は黒暗森林ということ.仮にある宇宙種属が自身以外知的生命体の所在を宇宙のどこかに感知したばあい,すみやかにそれを感知した種属は自身以外の生命体を抹殺するということが宇宙社会学という学問で「証明」される.宇宙社会学とはなにか.宇宙文明について,存在しているかどうかもわからないのだが,それについて理論的に考察する学問ということ.これは二つの公理から出発し,上述した問題などあらゆる問題をあたかもユークリッド幾何学のように基本となる公理から証明していく学問である.その公理とは二つ.

そのⅠ「文明はその自身の生存をなにより優先する」

その2「生存に必須な宇宙の物質の総量は限られている,いかなるテクノロジーを用いても増大することはない」

まったく,宇宙文明とどのようにつきあっていくのか,これまでのありがちな多種属の共存共栄は幻ということになる.ま,しかしそれで終わったら元も子もない,そこにはちゃんと共存する方法がこの物語では示されているのがポイントであった.そうあっても,その可能性はあるということ,それが素晴らしい.

 

その二はもし生命が存在していなかったらいまごろ地球は黄色い無機質な惑星で海がないということがスーパーコンピューターで予測される.え,海が無いと?生物種はたんに地球に寄生しているちいさな付着物ではないのか?という質問に対して,もちろん個体としての生物は弱い,しかし1000万年という時間は地質学的にはごく短い,そこに何億年という単位となれば生物が環境を変えるのは可能だということ.生物は自分にとって住みやすくかつ快適な環境を「創造」してきたのだ,ということ.

 

その三 物語の終盤で「お前らは虫けらだ」と宇宙人から全人類へ網膜へメッセージを送られ,皆落ち込んでしまう.もうだめだ,と科学者たちも酒浸りの自堕落な生活に陥っていく,しかし,そんな科学者らを一喝したのが上述した場末の刑事だ.イナゴによる害を例にとって,「これまでこのイナゴをはじめ虫けらどもが滅んだことがあったか?虫けら大いに結構だ,虫けらに人間がその存在を抹殺しようと科学の粋をあつめてやってきたものだがいまだにこんなに生きているではないか,そして定期的に人間に害悪をなしている.宇宙人と人間とどれだけ差があるのかしらんが,イナゴと人間以上にはなれているとはおもえない,イナゴにできて人類にできないとでもいうのか?」そんな内容の言葉をある美しい草原で虫が多数存在している中,刑事がさけぶ,これこそこの著者のメッセージだろうし最高のクライマックスだね.

 

ところで,それはそれとして,はて,現在我々が直面している気候変動についてだが,いったいどうなるのかね.何億年かけて生物が創造したこの地球というすばらしい環境.もし,今われわれ人類が破壊しようとしているとしたら・・・.結局,人類は地球という環境の問題,自分で解決する能力なく,しようともしない,もはや滅ぶべき存在である・・・すなわち,悪であるという結論に容易に達成する.そしてこの物語でもそんなグループも登場する.

 

われわれ地球というすばらしい環境がもはや生物が生存することできないほど手遅れにならないことを祈るばかりだね.